2008年09月14日 (日) | Edit |
宇野千代著「天風先生座談」二見書房より (65)


私のうまれたときに、親爺は華族の一門になっていました。
それまでの大名は華族に変ったんです。

その家に生まれたんですから、おんば日傘で育った。

ところが元来、私の性格がそういう生活を嫌っていた。
十六のとき、日清・日露のある有名な軍事探偵から、

一人の屈強な若者が欲しいという話があったと聞いて、
私はよろこんで飛び出しちゃった。私はつくずく、
大名華族の生活に嫌気がさしちゃったのであります。


つまり、人間の心の中には、つねに自由を求める心があるが
ためです。そうして、とにかく、中年までの探偵の生活は、
ほんとうに私の一番すみよいところ、働きよいところだった
のが、戦争が終わってから、突然、奔馬性肺結核という奴に
かかっちまった。

医者のみが知る、同じ肺病の中では、恐ろしい肺病であります。
馬が駆け出すように速く悪くなっちまうから、奔馬性肺結核。
その当時ですから、そんな名前をつけた。

どんどんと肺が、蝋燭のように溶けていってしまう。大喀血を
私は三十八度もしたんですよ。もとより、命を助かりたいとい
う気持よりは、毎日、瀕死の病から来るところの、形容できな
い、肉体の感ずる病苦の感覚。

この中には、そんな苦痛を味った人は一人もいませんでしょう
けれども、いずれか、この世を終わるときには、一日なり、
二日なり、一週間なり、お感じになるでしょうから、この際言
っておきますがね。

いよいよ、人生の全ページが終わろうとすると、不思議な現象
が起って来るんですよ。眼が見えなくなって、耳がバカに聞こ
えて来る。

いま、どんな補聴器をあてても聞こえないような聾でも、死に
目が近くなるってェと、二た間、三間おいて内緒話をしている
のが聞えるようになるのよ。だから、重病人のある家では、
絶対に内緒話をしてはいけない。

そのかわり、眼は眼の前に人が来ても見えず、おらない人が立
っているように見える。いわゆる幻覚。それから、もう一つい
やなのは、体がしょっちゅう、宙ぶらりんになっているような
気がする。

この間、九州旅行したときに、博多の宿屋で布団を、特別な
お客だというんで、そいつを三枚重ねやがった。こーんなに
高くなっちまって、どかァんとはいったら、俺、どこにいる
んだい、というふうに。

そのとき、あっと思ったのは、重態におちいったときの、あの
いやな気持だと思って、すぐ上の一枚だけ畳の上に敷いて、
そこへ寝ていたら、女中がはいって来て、

「まァどうしたんでございますか、」
というからね、
「いや、せっかくだけれども、嫌ェなんだから、かんべん
してくれ、」



次回につづく


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テーマ:モノの見方、考え方。
ジャンル:心と身体
コメント
この記事へのコメント
死ぬときの痛み
天風先生は「死ぬときの痛み」について語っておられ
ます。

「いずれか、この世を終わるときには、一日なり、
二日なり、一週間なり、お感じになるでしょうから、
この際言っておきますがね。

…眼が見えなくなって、耳がバカに聞こえて来る。
…毎日、瀕死の病から来るところの、形容できない、
肉体の感ずる病苦の感覚。」などなど

「死ぬときの痛み」はそこここで耳にしますが、
実際のところはどうなのでしょうかねぇ~

死ぬ間際の人にまさか「お取り込み中すみませんが、
死ぬときは痛みがあるといいますが、いかがですか?」
と聞くわけにもいきませんです。

今日もニュースで、ガンの場合などの「緩和ケア」で
全国の医師十万人にアンケートしたところ、十分に理解
されていないという結果だったと報じていました。

「痛みが起きても痛みの九割はコントロールでき、
モルヒネなどの医療用麻薬も適切に使えば依存性はなく
病気の進行にも影響がない。」ということも周知されて
いない、ということでした。

わたしの希望的観測によれば「死ぬときの痛み」は
かなりの個人差があるのではないかと思います。



2008/09/14(Sun) 19:41 | URL  | ろくろく #-[ 編集]
とても興味あるお話でした。
人生の全ページが終わろうとするとき、不思議な現象がおこる。
*眼は見えなくなる(幻覚がみえる)
   確かに父母はそうでした・・
*耳がとてもよく聞こえるようになる
   重病人のある家では絶対内緒話をしてはいけな   い。
*体がしょっちゅう宙ぶらりんになっているような感じ がする(幽体離脱という現象なのでしょうか)

覚えておきます。
そんなときは死がそこまできていることを自覚できるチャンスなのですね^^
2008/09/14(Sun) 09:46 | URL  | やまんばさん #-[ 編集]
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