2008年08月19日 (火) | Edit |
宇野千代著「天風先生座談」二見書房より (59)


そして、当の本人は、日本一の金持ちでありながら、
家にいる時には、銘仙の着物でいる。

明治三十年頃、服部時計店でその時分、二十五円で
買ったという精工舎の時計を持っている。

「なんぼなんでも、そんな時計なさらなくたって、
あなただって。時計会社お持ちなんでしょ。」

「はい、スイスに三つ会社を持っています。」
「その時計会社で作ったものをなさらないんですか。」


「これつけてると、おじいさんと一緒にいるような気が
しまして。これ、狂いはないんですよ。」

と笑っている。この人たち、これで満足してるんです。
とにかく指輪なんか、ざらざらッと豆をこぼすように抽斗の
中にはいっているのに、奥さんは指に一つもはめていない。
なぜかときくと、

「そんなものはめたら、ちょいと用をするんでも、ひっかか
って邪魔になります。親から貰いましたこの五本の指で結構
です。」

旦那がしがないサラリーマンで、五万か六万ぐらいしか取ら
ない月給取りの細君が、三十万、四十万という指輪を、どこ
から持って来たお金で買ったかな。

よけいなこってすけれども、ああいうのが汚職の原因じゃな
いかと、よけいなこってすけれども。

あの奥さん、もう亡くなりましたかね。あの指輪、どうなっ
たかしら。別に考える必要はないけれども、あなた方、考え
やしないかと思うんだ。どうなったの。どうなったでしょう
かな。豆のように、だあッとあったんですから。

これが持つものの悩み。こういうと、あなた方、たとえ一日
でも好いから持ちたいや、というでしょうが、持ったってあ
まり多過ぎると、はめる気がしなくなっちゃいますよ。

指は十本だけです。足の指まではめてからに、二十本。五百
あるんです。どこへはめますか。何にも役にたたないものを
持っているくらい、骨の折れることはないでしょうな。

男爵の方は、また、死ぬまで、自分の居間が二十畳で次の間
が十畳くらいでしたが、その中に朝から晩まで、ただいただ
けでした。重役会議にも代理をやって出やしないしね。

その部屋の中に、朝から晩までいた。ちょうど高級な飼犬と
同じことです。繋舎の中から出られない。それを笑ってやっ
たことがある。きれいなコリーを奥さんが飼っている。

コリーは書生が散歩につれて行くとき以外は、そとへ出られ
ないわけです。「この方が仕合せだよ。出て行かれるから。」
と言って、笑ってやったことがあります。結局、死ぬまで、
この繋舎の中から出られない。




次回につづく


↓↓↓あなたの応援↓↓↓(1日1クリック)お願いします。

にほんブログ村 哲学ブログへ人気blogランキング精神世界 ランキング



スポンサーサイト
テーマ:モノの見方、考え方。
ジャンル:心と身体
コメント
この記事へのコメント
持つものの悩み
わたくしは悩むほど、お金でもなんでも持ったことが
ないので、持つものの悩みというのがなかなかピンと
きません。ヽ(*´ω`*)

知人の洋画家にものすごいレコードコレクターがいまして、
そのレコードをベストで再生するために、家を一軒建てた
人がいました。

で、レコードプレーヤーのカートリッジ(針)が傷むといけ
ないから、音楽を聴くときには毎回新しいレコードを買い
換えるんだと言っていましたね。

アンプやスピーカーにもこだわりがあって、音楽を楽しむ
よりも苦しんでいた音苦という印象しかありませんでした。

こういったのは持つものの悩みというのかもしれません。


2008/08/19(Tue) 17:10 | URL  | ろくろく #-[ 編集]
おはようございます
持つものの悩み・・と書いてあるけど、この方々はあんまり執着されてないように感じます。昔、饅頭屋に弟子入りした小僧には、最初嫌になるほど「あんこ」を食べさせるというのを聞いたことがあります^^。持っていて、それをどうこうしたいと気を揉むのなら、悩みだけど、執着していないのだから、ダイヤも石ころみたいなものな物なのでしょうね^^。
それとやまんばは思うのですけど、男爵が合わせて30畳くらいの居間に一生暮らしていたというけど、もうそこから自由に出られない・・・と、諦めた瞬間から、案外自由な気持ちでおられたのではないでしょうか?
私たち地球人はこの無限に広がる宇宙の広さに比較したら、それこそ、監獄にいるようなもの。しかし、自分の心の中は宇宙と同じくらい無限に広く深いと気づけば、外にでかけるのも、内なる世界をみるのも同じことのようにやまんばは思えるようになりました。

90歳で亡くなった義父が、足腰も不自由になり、いつもタンスを背に窓から見える空を見ていました(当時の家は高台にあり、座ると空しか見えません)
「おじいちゃん、空ばかりみて退屈しませんか?」
と、やまんばは聞いたのです。
「刻一刻、変化するから、退屈しないよ」
という返事に、やまんばは感心しました。微妙な変化を楽しむ事の出来る義父の感受性や、今の自分を受け入れ、それなりの楽しみを見つけておられる義父に、とても大切なことを教わり、頭が下がりました。

それと、男爵の言葉で
「これをつけてると、おじいさんと一緒にいるような気がする」と書かれてあるのが印象に残りました。
2008/08/19(Tue) 08:07 | URL  | やまんばさん #-[ 編集]
コメントを投稿
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック