2008年06月15日 (日) | Edit |
宇野千代著「天風先生座談」二見書房より (34)


ところが、その発見の喜びも束の間、嬉しいな、
と思ったと同時に、はたと大きな壁につき当たったんだね。

いまでもそうであるが、当時はなおさら、精神科学者でも、
実験心理学者でも、感応性能のあることは学問的に知って
いても、

その感応性能という、心の働きをおこなう中枢神経が弱いか
強いかは生まれつきで、人間の、人為的な方法や工夫では
それ以上どうにもならないんだ、というディグニションを、
どういう点から割り出したものか、一応持っていたんであり
ます。


早い話が、せっかく、お前、発見したけれども、
それはどうにもならん問題だよ。ということなんです。

その証拠として彼等の言うには、事実は争えない。
短気者はどうしたって短気だし、やきもち焼きは
どうしたってやきもち焼きだろう。

手癖の悪い奴はどんな教育をしたって駄目だし、
嘘つきはどこまで行っても嘘つきだ。生まれつきだから
直りゃしないよ。

がっかりしたの、失望したの。

しかし、私はそのとき、ひょいとこういうことを考えた。
まてよ。学者、必ずしも馬鹿じゃないが、学者は俺みたいに
自分の命を張って、こまったとか、研究したとかいうような
経験を持ってねェじゃネェか。

ただ自分が、人より余計に本を読んだり、研究したというだけ
のことじゃないか。その上、俺と違うのは、学者の持っている
ディグニションに対して、一片の疑義を持つ俺という人間は、
自惚れもあるかもしれないけれども、生まれつき決して気の弱
い人間ではない筈だ。

それはね、自分自身の心は自分が一番よく知っています。
なぜかというと、それに採用されれば、当然生きて帰れない
軍事探偵を、私は二度も自分から志願した。

それくらいの男だから、普通の人間より気が弱くはなかったと思
うがいかがでしょう。三千人の応募者の中から、最後の百十三人
を選ぶときに、陸軍大学の教官と生徒が、いちばん厳密なテスト
をしたのは、胆力であります。

胆力が薄弱だとしたら、軍事探偵なんかになれやしません。
胆力と武術だけが厳密に試された。その中にはいって、
私は無条件でパスした。その事実から考えても、普通の人間より
気力は強かったと確信している。

その人間がだよ。戦争のときに、あれほど勇敢な働きをして、
最後に、明治三十七年の三月二十七日、ロシヤ軍に囚われて
死刑の宣告を受け、断頭台にまで上った私だ。

そのときも、なお、私は平然として自分の死に直面し、心に動揺
を感じなかったのに、いま病にかかって、自分でも愛想がつきる
くらいに弱い心になったのは、どういうわけか。

生まれつきという点から、学者のいうことがほんとうならば、
俺は病になっても決して心は弱くならなかった筈だ。

戦争というような危険に直面すると、非常な強さが出て来て、
病になると、こんなだらしのねェ弱い心になるところを見るてェと、
学者のいうこと、必ずしも信じられないぞ。



次回につづく


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ジャンル:心と身体
コメント
この記事へのコメント
心と体は不思議な関係
そうですか~やまんばさんは「癌ノイローゼ」になられたんですか。
癌ノイローゼになる人は、実際の癌になる人より多いそうですね。

やまんばさんの二十代ですから、まあなにがあっても不思議では
ないような気もしますが(^。^;)よくここまで生きてこられました。
オメデトウゴザイマス。m(u_u)m

やまんばさんに限らず、十代、二十代の女の人は思い込みが激しい
ですね。昔売れっ子のアイドルの方たちとお付き合いさせていただ
いてた時がありました。真夜中に突然見知らぬ人から電話がかかって
くるのだそうです。「わたしのこと覗き見しないでください」とか、
「こんどの歌、わたしのために詩を書いてくれたんですね」とか。

アイドルの人たちって大変だな~と思いましたです。
何千、何万人のファンの人たちの妄想の餌食にされたりするのです。

癌ノイローゼの場合も、専門の病院に行って検査をするなど、事実を
しっかり把握すればよいのですが、妄想なんですよね。


2008/06/15(Sun) 22:07 | URL  | ろくろく #-[ 編集]
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