2008年06月10日 (火) | Edit |
H. サダーティッサ著 桂紹隆・桂宥子訳「ブッダの生涯」立風書房より(9)


王子は、眠っている人びとを起こさないようにそっと立ち上がり、
お供のチャンナを呼び、長旅の準備を整え、愛馬カンタカに
鞍を置くように命じた。

出発前に、王子はしなければならないことがあった。
俗世を捨てる決意をしたときにちょうど生まれた息子を、
まだ見ていなかったのである。

そこで、宮殿を出る途中に、王子は子どもとその母親が
眠っている部屋に立ち寄った。ヤソーダラーは、赤ん坊の顔を
手でかばうようにして、添い寝していた。

シッダールタはしばらくの間、苦しいディレンマと闘った。
もし、子どもの顔を見るために妻の手をはらえば、彼女は目を
さまし、出発を止めるであろう。


しかし、もしそうしなければ、息子を見ずに出発しなければ
ならない。王子はただちに決意した。

「息子の顔は見ずに出かけよう。だが、私が探し求めるものを
見つけたあかつきには、帰って来て息子や妻に会おう。」

忠実なチャンナに伴われたシッダールタが、カピラヴァストゥ
を静かに抜け出したのは、真夜中のことであった。

市の城門を越えたとき、王子は、はじめて立ち止まって宮殿を
振り返った。彼が生まれ育ち、すべての知人や肉親が住む宮殿は、
月光の中に寝静まっていた。

夜どおし馬を走らせ、ふたりはサキャ国とマガタ国の国境を流れる
アノーマー川にたどりついた。川を越えると、シッダールタは馬を
降りた。

それから、上等な絹の服を脱ぎ、チャンナに手渡して、馬とともに
カピラヴァストゥにもどるように命じた。そのような衣服は、
苦行者にはふさわしくなかったからである。

それから王子は、長い髪をみずから剣で切り落とした。最後に、
オレンジ色の衣をまとい――伝説によると、それはある親切な神が
与えたことになっている――托鉢の鉢を手にとると、チャンナに立
ち去るように命じた。しかし、チャンナはそれを拒んだ。

「ご主人様と別れて、どうやって宮殿で暮らしていけましょう。
どうかいっしょに行かせてください。」

「だめだ、私の服と宝石を父に持って帰っておくれ。それから、
両親と妻に心配しないように伝えておくれ。私は、老、病、死の
苦悩からのがれる道を探しに出かけるのだ。

それを見つけたら、すぐに宮殿にもどり、両親、妻、息子、そして
皆に教えよう。そうすれば、皆が本当に幸福になるのだ。」

この胸がしめつけられるような別離の物語の最後に登場するのが、
シッダールタの馬、カンタカである。チャンナが、しぶしぶ宮殿へ
もどることにしたとき、カンタカはどうしても動こうとしなかった。

馬を帰すために、シッダールタは話しかけなければならなかった。
カンタカは、しかし、ほんのしばらく進むと、立ち止まって主人の
ほうをふり返った。

先へ進ませるために、チャンナはさらに説得を続けた。そして、
ついにカンタカが歩み出したとき、その目からは涙がこぼれていた
という。後にこの馬は、悲しみのあまり死んだと伝えられている。



次回につづく


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こんばんわ^^
ろくろくさん、皆さん、お元気ですか?やまんばも毎日元気にもくもくと生活しています。
どんなに忙しくても毎日記載されているのを読ませていただき、応援しています。絵も描いていますが、ばあちゃんの介護が最近本格的になってきましたよ。ばあちゃんもなにしろ、こんなに長生きできるとは思っていなかったようで、新しい体験に本人も私たちも、うろたえたり、絶句したり、泣き笑いの人生を送っております。
しかし、一番大切なのは、声かけや、一緒の時間をわずかでも過ごし、不安を和らげて差し上げることだと、実感しています。

ろくろくブログを広げるとろくろくさんや、皆さんとすぐにつながっているようで、心が温まります。なにしろ、あんまり外出できませんので^^。
これからも楽しみにしていますね^^。
2008/06/10(Tue) 20:08 | URL  | やまんばさん #-[ 編集]
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