2008年06月09日 (月) | Edit |
H. サダーティッサ著 桂紹隆・桂宥子訳「ブッダの生涯」立風書房より(8)

シッダールタは馬を停めて、チャンナにたずねた。

「あれは誰だ。人間なのか、それとも神なのか。
まるで、この世の悲しみや喜びと関係がないかの
ように落ちつき、悠々と立っているではないか。」

そこで、忠実なチャンナは答えた。

「ご主人様、あれは苦行者です。老齢や病気や死が
人間を苦しめるありさまを見て、人生のなぞを解明
しようと俗世を捨てた人です。

苦行者には、洞穴や森の中の仮住まいの他に家が
ありません。日に一度のつましい食事にじゅうぶん
なだけの食べ物を請い求め、実質な修業生活を送り
ます。


行い、言葉使い、思考が清らかになるように努め、
瞑想によって、俗世の苦悩から解放されることを
捜し求めているのです。

苦行者は、あちこちと旅して、いかにしてよき人生を送り、
幸福を見出すかを人びとに教えようとする者です。」

言うまでもなく、これがバラモンたちによって予言された
四番目の象徴的な光景であった。

感動したシッダールタは、今回は宮殿にもどらず、物思いに
ふけりながら馬車を走らせ続けた。そしてとうとう、これまで
三度の遠乗りの目的地だあった遊園に到着した。

そこでは、王子を楽しませるための準備万端が整えられていた。
楽師、踊り子、詩人、学者らが、王子を待ちかまえていた。
食べ物や飲み物も、ふんだんに用意されていた。

しかし、来る途中考え続けてきたことがシッダールタの頭から
離れなかった。そして、楽しみと慰みに満ちた遊園を散歩しな
がら考えた。

「私はあの苦行者のようにならなければならない。きょう、この日、
私も出家しよう。そして、うわべだけの快楽に明け暮れた歳月の中
では気づかなかった、苦からの解放を捜し求めよう。」

やがて散歩にあきたシッダールタは、木陰に腰を下ろした。
こうして王子が休んでいるところに、吉報をたずさえた使者が馬を
とばして到着した。

王子の妻、ヤソーダラー王妃がたった今、男の子を出産したのであ
った。しかし、シッダールタはその知らせを喜ばず、がっかりして
聞いた。宮殿にもどろうと腰を上げた王子は、「また一つ、私を縛
りつけるものがふえた。」と叫んだ。

しかし、シッダールタの決意はゆるがなかった。いまや何も、世継
ぎの誕生でさえも、選んだ道から王子をそらすことはできなかった。

王はシッダールタの願望に気がついた。恐れていたバラモンたちの
予言が的中してしまった今、王子を失うことになると内心はあきら
めたが、ひき止める最後の切り札として、世継ぎの誕生を祝う華や
かな祝宴を用意した。

国じゅうから主だった歌手や楽師が招待され、踊りじょうずの美し
い踊り子たちが集められた。この上なく豪華なごちそうもふるまわ
れた。

父王の期待に応えて、シッダールタは出席はしたものの、自分自身
の考えごとに心をとらわれて、王子のために用意された贅沢な催し
には少しも関心を示さなかった。

夜がふけるにつれ、王子はうたた寝をはじめた。やがて、楽師や
踊り子たちは、眠っている王子のために演奏していることに気づい
て、自分たちも休むことにした。

すぐに彼らも、ぐっすりと眠りこんでしまった。目をさました
シッダールタは、先ほど自分を楽しませようとしていた人たちが、
全員まわりでぐっすり寝ているのを見て驚いた。

なんとその姿の違っていたことか!しとやかさと美しさで国じゅう
に名高い踊り子や歌手が、今は椅子や長椅子の上にだらしなく、
大の字になって寝そべっている。

大きないびきをかく者もいれば、獣のように歯ぎしりをする者も
いる。先刻までの美しさはけがらわしさに変っていた。
シッダールタの俗世に対する嫌悪感は最高潮に達した。



次回につづく


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テーマ:仏教・佛教
ジャンル:学問・文化・芸術
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