2009年08月18日 (火) | Edit |
よだかの星は宮沢賢治の作品の中でも
とりわけろくろくが好きな童話です。
時々こうして読みかえします。


よだかの星
宮沢賢治

 よだかは、実にみにくい鳥です。
 顔は、ところどころ、味噌(みそ)をつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。
 足は、まるでよぼよぼで、一間(いっけん)とも歩けません。
 ほかの鳥は、もう、よだかの顔を見ただけでも、いやになってしまうという工合(ぐあい)でした。
 たとえば、ひばりも、あまり美しい鳥ではありませんが、よだかよりは、ずっと上だと思っていましたので、夕方など、よだかにあうと、さもさもいやそうに、しんねりと目をつぶりながら、首をそっ方(ぽ)へ向けるのでした。もっとちいさなおしゃべりの鳥などは、いつでもよだかのまっこうから悪口をしました。
「ヘン。又(また)出て来たね。まあ、あのざまをごらん。ほんとうに、鳥の仲間のつらよごしだよ。」
「ね、まあ、あのくちのおおきいことさ。きっと、かえるの親類か何かなんだよ。」

よだかの星 (ミキハウスの宮沢賢治の絵本)よだかの星 (ミキハウスの宮沢賢治の絵本)
(2008/10)
宮沢 賢治

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 こんな調子です。おお、よだかでないただのたかならば、こんな生(なま)はんかのちいさい鳥は、もう名前を聞いただけでも、ぶるぶるふるえて、顔色を変えて、からだをちぢめて、木の葉のかげにでもかくれたでしょう。ところが夜だかは、ほんとうは鷹(たか)の兄弟でも親類でもありませんでした。かえって、よだかは、あの美しいかわせみや、鳥の中の宝石のような蜂(はち)すずめの兄さんでした。蜂すずめは花の蜜(みつ)をたべ、かわせみはお魚を食べ、夜だかは羽虫をとってたべるのでした。それによだかには、するどい爪(つめ)もするどいくちばしもありませんでしたから、どんなに弱い鳥でも、よだかをこわがる筈(はず)はなかったのです。
 それなら、たかという名のついたことは不思議なようですが、これは、一つはよだかのはねが無暗(むやみ)に強くて、風を切って翔(か)けるときなどは、まるで鷹のように見えたことと、も一つはなきごえがするどくて、やはりどこか鷹に似ていた為(ため)です。もちろん、鷹は、これをひじょうに気にかけて、いやがっていました。それですから、よだかの顔さえ見ると、肩(かた)をいからせて、早く名前をあらためろ、名前をあらためろと、いうのでした。
 ある夕方、とうとう、鷹がよだかのうちへやって参りました。
「おい。居るかい。まだお前は名前をかえないのか。ずいぶんお前も恥(はじ)知らずだな。お前とおれでは、よっぽど人格がちがうんだよ。たとえばおれは、青いそらをどこまででも飛んで行く。おまえは、曇(くも)ってうすぐらい日か、夜でなくちゃ、出て来ない。それから、おれのくちばしやつめを見ろ。そして、よくお前のとくらべて見るがいい。」
「鷹さん。それはあんまり無理です。私の名前は私が勝手につけたのではありません。神さまから下さったのです。」
「いいや。おれの名なら、神さまから貰(もら)ったのだと云(い)ってもよかろうが、お前のは、云わば、おれと夜と、両方から借りてあるんだ。さあ返せ。」
「鷹さん。それは無理です。」
「無理じゃない。おれがいい名を教えてやろう。市蔵(いちぞう)というんだ。市蔵とな。いい名だろう。そこで、名前を変えるには、改名の披露(ひろう)というものをしないといけない。いいか。それはな、首へ市蔵と書いたふだをぶらさげて、私は以来市蔵と申しますと、口上(こうじょう)を云って、みんなの所をおじぎしてまわるのだ。」
「そんなことはとても出来ません。」
「いいや。出来る。そうしろ。もしあさっての朝までに、お前がそうしなかったら、もうすぐ、つかみ殺すぞ。つかみ殺してしまうから、そう思え。おれはあさっての朝早く、鳥のうちを一軒(けん)ずつまわって、お前が来たかどうかを聞いてあるく。一軒でも来なかったという家があったら、もう貴様もその時がおしまいだぞ。」
「だってそれはあんまり無理じゃありませんか。そんなことをする位なら、私はもう死んだ方がましです。今すぐ殺して下さい。」
「まあ、よく、あとで考えてごらん。市蔵なんてそんなにわるい名じゃないよ。」鷹は大きなはねを一杯(いっぱい)にひろげて、自分の巣(す)の方へ飛んで帰って行きました。
 よだかは、じっと目をつぶって考えました。
(一たい僕(ぼく)は、なぜこうみんなにいやがられるのだろう。僕の顔は、味噌をつけたようで、口は裂(さ)けてるからなあ。それだって、僕は今まで、なんにも悪いことをしたことがない。赤ん坊(ぼう)のめじろが巣から落ちていたときは、助けて巣へ連れて行ってやった。そしたらめじろは、赤ん坊をまるでぬす人からでもとりかえすように僕からひきはなしたんだなあ。それからひどく僕を笑ったっけ。それにああ、今度は市蔵だなんて、首へふだをかけるなんて、つらいはなしだなあ。)
 あたりは、もううすくらくなっていました。夜だかは巣から飛び出しました。雲が意地悪く光って、低くたれています。夜だかはまるで雲とすれすれになって、音なく空を飛びまわりました。
 それからにわかによだかは口を大きくひらいて、はねをまっすぐに張って、まるで矢のようにそらをよこぎりました。小さな羽虫が幾匹(いくひき)も幾匹もその咽喉(のど)にはいりました。
 からだがつちにつくかつかないうちに、よだかはひらりとまたそらへはねあがりました。もう雲は鼠色(ねずみいろ)になり、向うの山には山焼けの火がまっ赤です。
 夜だかが思い切って飛ぶときは、そらがまるで二つに切れたように思われます。一疋(ぴき)の甲虫(かぶとむし)が、夜だかの咽喉にはいって、ひどくもがきました。よだかはすぐそれを呑(の)みこみましたが、その時何だかせなかがぞっとしたように思いました。
 雲はもうまっくろく、東の方だけ山やけの火が赤くうつって、恐(おそ)ろしいようです。よだかはむねがつかえたように思いながら、又そらへのぼりました。
 また一疋の甲虫が、夜だかののどに、はいりました。そしてまるでよだかの咽喉をひっかいてばたばたしました。よだかはそれを無理にのみこんでしまいましたが、その時、急に胸がどきっとして、夜だかは大声をあげて泣き出しました。泣きながらぐるぐるぐるぐる空をめぐったのです。
(ああ、かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてそのただ一つの僕がこんどは鷹に殺される。それがこんなにつらいのだ。ああ、つらい、つらい。僕はもう虫をたべないで餓(う)えて死のう。いやその前にもう鷹が僕を殺すだろう。いや、その前に、僕は遠くの遠くの空の向うに行ってしまおう。)
 山焼けの火は、だんだん水のように流れてひろがり、雲も赤く燃えているようです。
 よだかはまっすぐに、弟の川せみの所へ飛んで行きました。きれいな川せみも、丁度起きて遠くの山火事を見ていた所でした。そしてよだかの降りて来たのを見て云いました。



次回につづく


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コメント
この記事へのコメント
やまんばさん

「運命じゃない人」面白かったでしょう。

「あんまりたくさん見ると、頭の中がごっちゃになって、
どのシーンがどの映画だったのかわからなくなってしまう」
というところがいかにも、やまんばさんらしいですね。

映画の好みも10人10色で、千差万別だとは思うのですが、
「ショーシャンクの空に」や「LOVE LETTER」のように
ドラマのからくりに気づきた時の快感が忘れられないといった
映画もいいですね。


2009/08/21(Fri) 15:17 | URL  | ろくろく #-[ 編集]
おはようございます。
そうでした。ビデオでなくDVDでした^^ ^^

少し前のDVDの紹介の一覧表をメモしていたのです。

運命じゃない・・・これはある事実を何度も時間を少しづつ逆さに追って、見る側にわからせるやり方が大変おもしろかったです。なるほど~~~そうだったのか!というふうに。

あんまりたくさん見ると、頭の中がごっちゃになって、どのシーンがどの映画だったのかわからなくなってしまうので、一度に何本もみないほうが、やまんばのためにはいいようです。身勝手なもので、自分の身に関係ないものはあまり記憶にのこらないのだと思います^^^^

映画も出会いで、心底感動したり、共鳴できる映画は数少ないのだと思うのです。また、同じ映画を見ても、人さまざま、印象に残る個所がちがう。だから感想を聞くと、その人を理解するのに、役立つと思います。
が、しかし、
どの映画であろうと、見終わった後、「あ~~~、映画っていいなあ!!!」と思うから、不思議です^^。

今回お勧めのDVDもメモしておきます。またまた楽しみができました。
このブログのおかげで、脳が活性化して何倍も楽しく生きていけるように思えます。ありがとうございます。
2009/08/21(Fri) 07:11 | URL  | やまんばさん #-[ 編集]
やまんばさん、お久しぶりです。
ろくろく紹介の映画の、
ビデオではなくてDVDでしょ?

というのはあのjackthinさんにご紹介した旧作のDVDの
一覧のことかな?

jackthinさんのおっしゃるように新作はレンタル料金が
高いのですよね。忘れていました。

無理して評価が定まらない新作に手を出すよりは、評価
の定まった旧作をじっくり見ていくのもよいですね。

あれはjackthinさん用にリストアップしたものだから
やまんばさんにお勧めするのとはちょっと違うかも知れ
ません。と思ってもう一度見直してみたら、あまり違わ
ないことに気付きました。(^_^;)アセアセ...

でもあの「オールド・ボーイ(韓国) 」はやめた方がよい
かもしれません。かなりエグイです。

アンジェラ
アメリ
ゴースト/ニューヨークの幻
ノッティングヒルの恋人

は女性の方にもおすすめです。
「運命じゃない人(邦画) 」も意外とよかったです。

大林宣彦監督のものは「転校生」「時をかける少女」など
観ていますが、2008年作の「その日のまえに」はあまりお勧
めできないのが残念です。

最近見た旧作の超お勧めは、
岩井俊二監督の「LOVE LETTER」です。
まだご覧になってなければ是非ご覧ください。


2009/08/20(Thu) 14:31 | URL  | ろくろく #-[ 編集]
先日、ろくろくさん紹介の映画のビデオを借りに行きました。

紹介の中にはなかったのですが、
大林監督の「転校生」が印象に残りました。

相手の身になる・・・・こういう風に体が入れ替わることが出来たら、具体的にはっきりとわかって便利がいいのになあ^^と思いました。
ラストのシーンがさわやかに全体をまとめていたように思いました。
2009/08/20(Thu) 05:14 | URL  | やまんばさん #-[ 編集]
心の底辺にひたひたと涙の川が流れている
おはようございます。

孫たちも帰り、やまんばの夏休みも終わりました。

「よだかの星」

賢治の話は言葉が独特で、読みながら情景が繰り広げられ、いつの間にか自分がその中に入ってるので、わかりやすい。

私も久しぶりに「賢治童話 翔泳社」を手にとり、よだかの星の続きを読みました。

*しんねりと目をつむる
*夜だかが思い切って空を飛ぶときは そらがまるで二つに切れたように思われます
*きしきしとなく 
*のろしのように空にとびあがる
*もう山焼けの火はたばこの吸殻のくらいにしか見えません
*私のようにみにくいからだでも、灼けるときには小さなひかりを出すでしょう 
*星になるには、それ相応の身分でなくちゃいかん。またよほど金もいるのだ(^^^^^^ やまんばのひそひそ笑い)
*わたしの名前は私が勝手につけたのではありません。神さまからくださったのです

*僕はもう虫をたべたくない うえて死のう

などなど独特な言い回しがいっぱい。

心の中をひとたびかき混ぜると、どろどろになるけど そのまんまにしていると泥は沈み、ほとんどはきれいなお水になる。

賢治のお話は人間の心をしっかりと見つめ、それを丸で湧いてでるような語り口で、ひとたび聞いたら、鮮やかな夢をみたように一生忘れられないお話に創り上げ、おまけに読後、どうやっていきるかさえ、残してくれるようです。

やまんばが持っている翔泳社のこの本は、本の厚さと手触りが心地よくお気に入りの一冊です。
2009/08/20(Thu) 05:04 | URL  | やまんばさん #-[ 編集]
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