2008年11月21日 (金) | Edit |
谷沢永一著「嫉妬する人される人」幻冬舎より(3)
第一章 嫉妬が動かしてきた日本社会(3)


秀吉の場合、彼が並々ならぬ感受性の強さをそなえて
いただけでなく、思考能力が発達して、人を見る目の
ある人物であったからこそ、「恐れ」から「憎しみ」
に変ったのですが、

浮世のわれわれ凡夫の世界でも、嫉妬はある程度器量
の釣り合いの取れているなかで成立するものです。

「あいつには、全然かなわない」となると、
これはもう嫉妬どころではない。あきらめか、
憎しみの対象となるしかないでしょう。


だれでもみな胸の中には、この世から消してやりたい
人間が、一人や二人はいるものです。

できることなら、丑の刻参りをしようということになる。
問題は、嫉妬とはそこまで行くものであるということです。

と同時に、この両雄のエピソードを裏返していうと、
官兵衛の真の実力を見抜いた秀吉には素晴らしい人間観察眼
があるともいえるでしょう。

その時、秀吉は「自分が嫉妬している」と自己認識していた
かどうかはわかりません。司馬さんはそのように書いてます
が、実在の秀吉はどうでもいい。要するに司馬さんは、
いわば史上最高の嫉妬を書こうとしたのです。

これは日本文学史上の空前の達成だと思います。
『播磨灘物語』は、作品としては軽く見られていますが、
やはり司馬さんは黙って、胸に秘めた思いには一言も触れずに、
みずからの思いの丈を書いているのだと思います。

ひょっとしたら官兵衛は、もし秀吉が途中で挫けることが
あったら、取って代わろうという気持ちを持っていたかも
しれません。

だから、それを敏感に察知した秀吉は、官兵衛を十三万石
に押さえ込んでしまったのではないかと思うのです。

それに対して、前田利家はとにかく純情です。自分を今日の
ように大きな天下一の大名にしてくれたのは秀吉のおかげだ
と思いこんで、まったく謀叛気なく一生を通します。

遺言にも「もしも太閤、あるいは豊臣家に事があったら軍を
催して……」という一文を残しています。もっとも、その
遺言を実際に筆記したのは、女房のおまつ、芳春院です。

ところが、それは利家という初代までで、利家がなくなるな
り、おまつは息子の利長に「あの遺言は全部忘れなさい」と
宣告するのです。

利家が「でも、あれは父上の遺言ではないですか」と反論す
ると、おまつは、「あんあことは、おまえにはとてもできま
せん」と、とどめの一言を放ちます。

もともと権力とは、そんなものなのです。
利家に限らず、戦国の世で一生を全うした人物とは、どこか
で自分を抑えて、権力者の嫉妬の対象にならないよう、控え
めに身を処している。

息子の利長にはそれができないと読んだのは、おまつの慧眼
でしょう。嫉妬の感情を制御する術を心得ているかどうか、
それが人物の「器」を決めるのです。



次回につづく


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モーツァルトとサリエリ
なるほど、モーツァルトとサリエリの関係は、秀吉と官兵衛の関係に
ホントにそっくりですね。



歌劇《モーツァルトとサリエリ》プーシキン原作/リムスキー・コルサコフ作曲
というオペラがあるのを知りませんでした。


モーツァルトがその才能に嫉妬したサリエリに毒殺されたという説を題材
にした1幕ものの歌劇。ロシアの詩人プーシキンの同名の劇詩をほぼその
まま台本として作られている。


サリエリ(Br)、モーツァルト(T)

あらすじ

1場

音楽家として成功したサリエリだったが、自分より職業音楽家としての地位は低いが後世に名を残せることができる才能を持っているモーツァルトに嫉妬している。モーツァルトが登場して、居酒屋で自分の「フィガロの結婚」のアリアをバイオリンで弾いていた老人を連れてくる。彼は何か弾くようにと言われると「ドン・ジョヴァンニ」の「ぶってよマゼット」を弾く。サリエリは不快になって彼を追い払う。モーツァルトはサリエリに最近、不眠症に悩まされているが、突然楽想が浮かんだので聞いて欲しいといって、ピアノを演奏する。サリエリは彼の才能に感動し、なぜ君は自分の才能に気付かないのか?と聞き、夕食を一緒に取ろうと「金獅子亭」に誘う。モーツァルトは妻に夜は外で取ることを伝えるために出て行く。サリエリはモーツァルトを毒殺する決意をする。

2場

金獅子亭で、2人が食事をしている。モーツァルトは実は3週間前にレクイエムの作曲の依頼を受けたが、その依頼者が名を名乗らなかったので、気味が悪く、死神のようだったと恐れている。彼はなだめるサリエリにボーマルシェの「天才と悪行は両立しない」と言う言葉を引用する。サリエリは毒を酒に入れてモーツァルトにすすめる。彼はピアノの前へ行ってレクイエムを引き出す。サリエリは涙を流し、モーツァルトは気分が優れないといって帰っていく。一人残されたサリエリはモーツァルトが引用したボーマルシェの言葉を否定する。



2008/11/21(Fri) 19:00 | URL  | ろくろく #-[ 編集]
秀吉は人間観察眼が優れていた
だからこそ、黒田官兵衛を極度に恐れた。
ちょっと、やまんばも調べてみました。黒田官兵衛さんも人生いろいろあったけど、結局死ぬ時は「人に媚びず、富貴を望まず」という遺訓を残されている。
人間生きていると、様々な選択をしなければならないけど、やはり、この方の遺訓を目にした時、良い道を選択されてきたのだなあと思いました。若いときはそれなりに欲はあるけど、自分の野心を隠し、無欲を演出したとしても、結局はそれが一番自分を幸せな道に導くことだったのだと、案外大いなるものに守られていたことに感謝されたのではなかろうかと思いました。
あんまり欲が深いときは、未来が見えにくいし、行動も遅くなるようにやまんば個人の行動を振り返って思っています^^。
このお二人の話を聞いていると、映画「アマデウス」のモーツァルトとサリエリの関係を思い出しました。
サリエリさんも、モーツァルトの才能をあれほど深く理解する感受性がなければ、あんなに憎しみを持たずに済んでいたでしょうに・・・。モーツアルトを憎み、それと同じくらい激しくモーツァルトの音楽を愛した人。そしてモーツァルトも、サリエリさんの音楽を理解する能力が誰よりもあることを認め、その人に認めてほしかったのかもしれません。
そういう人間関係がまた、あの名曲レクイエムをこの世に誕生させることになったのなら、嫉妬もある意味すばらしいことなのかもしれません。
2008/11/21(Fri) 11:21 | URL  | やまんばさん #-[ 編集]
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