2008年10月11日 (土) | Edit |
宇野千代著「天風先生座談」二見書房より (72) 


そのかわり、いま言ったように、月に千ドルの約束でもって、
通学してやった。そうしたら学位とってやったもんだから、
また一万ドルよこした。

ポッポの中、すっかり暖まっちゃって、世界中歩いたが、
ただ、探し求めて歩いたものは得られなかった。

そこで、何にもならないから死んじまおう、と思ってね。
死ぬなら日本に帰って死のう。死んじまおう、
というよりも、死ななければならない。

余命いくばくもないことは、自分でよく知っていますからね。


どうせ死ぬなら、やっぱり生まれた祖国の土の上で死のう。
そうだ。富士山のある、桜咲く国、あそこへ帰ろう。
幼いときから、物好きに家を飛び出た俺だ。

やはり、いざとなると、祖国が恋しい。
同じ言葉の通じる兄弟姉妹のいるところがいい。

そうしてね、ほんとうに、人間、淋しくなると思わず、
「お母さん」と言うんですよ。
お父つぁんとは絶対に言わない。

親爺、しっかりしろよ、ほんとうに。
子供という奴は、おっかさんだけだね。だから、おっかさん。
しっかりしなきゃ駄目だぜ。

くずれた半襟みたいなおっかさんじゃ、とても、これからの、
ほんとうに頼もしい息子を作ることは出来ませんよ。

いや、あなた方のことを言っているんじゃあない。
多少はそのこともあるけれども、東京の人間のことを言って
いるんですから、どうぞ悪しからず。

そうして、日本へ帰ろうと思って、フランスの荷船に乗った。
人間の運命というものは、妙なものだ。その前、十日ばかり
前に出た客船で、これが無条件で上海まで行ったんですが、

その、無条件で上海まで行く船に乗っていたら、私は、今日、
生きてはいなかったでしょうな。

何だか、妙に、帰るのが心細くなってね、十日ばかり、どうせ
帰るなら、もうすこしいなさい、とサラ・ベルナールが言うので、
十日ばかりいて、サラ・ベルナールの従兄が船長をしている荷船
に乗って、これがペナンまでしか行かない。

ペナンで乗り換えて、上海に行きなさい。密航した人間なんだか
ら、日本にまともに帰っては来られませんから。いまなら帰れる
けれども、そのときは、まだ十年も経っていないんですから。

それから、話せば長いことながら、地中海の船底で、もう、
一ぺんもデッキの上へ出たことがない。一週間たったら、
私の旅のプログラムの中には全くなかった、エジプトのカイロに
出て来た。

前にもお話いたしましたが、そこでもって、インドの大哲人と
いわれているヨガの大酋長、カリアッパという人に見いだされた
といいましょうか、あるいは気に入られたといいましょうか、

血を吐いて、真っ青になってからに、息のヒイヒイいっている
人間に、いったい、どこに見どころがあるのか。

これが私を、ヒマラヤ第三のピークの、カンチェンジュンガの麓
へつれて行ってくれたのであります。そこが、彼の故郷です。



次回につづく


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ジャンル:心と身体
コメント
この記事へのコメント
ポッポ
辞書で調べてみるとぽっぽはふところ。
また、ふところぐあい。「―が暖かい」

天風先生の「ポッポの中、すっかり暖まっちゃって、
世界中歩いた」という表現は正しかったです。

他に
1 湯気・炎・煙などが盛んにたちのぼるさま。
「―と湯気が立つ」「汽車がしゅっしゅっ―と走る」
汽車ぽっぽ。

2 からだが熱くなるさま。ほてるさま。
「恥ずかしくて顔が―(と)する」

3 ハトの鳴き声を表す語...はとぽっぽ

さらに
けんぽっぽ ぽっぽらんど ぽっぽ町田 ぽっぽ庵 でんぽっぽ
ぽっぽっ屋 はとぽっぽ体操 ぽっぽ茶 ぽっぽ旅団 ぽっぽ温泉
ぽっぽ焼き ぽっぽ音楽教室・・・
などなどたくさんありました。




2008/10/11(Sat) 18:47 | URL  | ろくろく #-[ 編集]
お母さん
本当に懐かしい響きです。
「お母さん」
あの笑顔に、もう一度会いたいです。
あの香りの中にすっぽり包まれたいです。
2008/10/11(Sat) 12:21 | URL  | やまんばさん #-[ 編集]
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